肺高血圧センター

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診療のご案内

長く続く息切れにご注意!

はじめに
済生会習志野病院では、肺高血圧症外来を行なって参りましたが、2019年4月に、千葉大学呼吸器内科特任教授 田邉 信宏医師が着任し、肺高血圧症センターを開設いたしました。県内では、千葉大学呼吸器内科に続き2つめの肺高血圧症センターとなります。肺高血圧症ならびに、肺血栓塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)の薬物治療、肺動静脈瘻のコイル塞栓治療等を行なっています。階段歩行時の息切れが長く続いたり、疲労感やむくみがあるが原因がよくわからないとされている患者さんは、肺高血圧症の可能性もありますので、一度受診していただき、ぜひご相談ください。

外来日(紹介予約制)
月曜日 午後 田邉 信宏
火曜日 杉浦 寿彦
木曜日 田邉 信宏
金曜日 須田 理香

※セカンドオピニオン外来も随時受け付けています。
予約センター 047-473-1298

スタッフ

田邉 信宏(タナベ ノブヒロ) 肺高血圧症センター長 呼吸器内科兼任

 私は、千葉大学呼吸器内科で、約30年にわたり、肺高血圧症診療に携わってまいりました。当初、診断することが難しく、治療法がない病気であった肺動脈性高血圧症は、1999年にエポプロステノール持続静注療法が使用可能になって以後飛躍的に生存率の改善がみられます。さらに、有効な経口薬も次々と開発されています。慢性肺血栓塞栓症も、千葉大学心臓血管外科のグループで1986年より行なってきた肺動脈内膜摘除術、バルーンカテーテル治療や血管拡張薬の開発で、QOLや生存率の改善がみられるようになりました。これらの病気は、指定難病として、国の補助が受けられますが、千葉県の登録患者数は、人口に比して、低く、未診断の例が多いと考えられます。船橋、習志野、八千代、北総地域において、患者さんが見つかり、早期、診断によって、最新の治療が受けられるように、したいと思っています。

略歴

 1985年千葉大学医学部卒業
 1994年 研究員 (米国インディアナ大学医学部麻酔学・生理学教室)
 2014年 千葉大学大学院医学研究院 先端肺高血圧症医療学 特任教授
 2019年 千葉県済生会習志野病院副院長 肺高血圧症センター長
     千葉大学大学院医学研究院 呼吸器内科学 特任教授(非常勤)

資格および学会活動

日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本呼吸器学会指導医
日本呼吸器学会代議員、日本呼吸ケアリハ ビリテーション学会理事、日本肺高血圧肺循環学会 評議員、American college of chest physician FCCP、2017年日本循環器学会肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断と治療、予防に関するガイドライン作成委員、同肺高血圧症治療ガイドライン協力委員、日本肺高血圧・肺循環学会 難知性呼吸器疾患 肺高血圧症に関する調査研究班 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)診療ガイドライン作成委員長、Best Doctors in Japan (2022-2023) 

杉浦 寿彦(スギウラ トシヒコ) 非常勤医師

千葉⼤学医学部附属病院 診療准教授(呼吸器内科)

略歴

 2003年 千葉大学医学部卒業
 2019年 千葉大学医学研究院 呼吸器内科学 特任教授
 2022 年 千葉大学医学部附属病院 診療准教授(呼吸器内科)

資格および学会活動

日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本呼吸器学会専門医・指導医、日本呼吸器内視鏡学会専門医・指導医、日本IVR学会IVR専門医、日本呼吸器学会代議員、日本呼吸器内視鏡学会評議員、日本オスラー病研究会世話人

須田 理香(スダ リカ)常勤医師

千葉県済生会習志野病院 呼吸器内科兼任

略歴

2005年 京都大学医学部卒業
2018年 千葉大学医学研究院 呼吸器内科学 特任助教
2021年 千葉県済生会習志野病院

資格および学会活動

日本内科学会総合内科専門医、指導医
日本呼吸器学会専門医、指導医
日本医師会認定産業医
日本がん治療認定医機構 がん治療認定医

永田 淳(ナガタ ジュン) 医師

千葉県済⽣会習志野病院 呼吸器内科兼任

今井 俊(イマイ シュン)⾮常勤医師

千葉⼤学⼤学院医学研究院呼吸器内科学

佐藤 崇浩(サトウ タカヒロ)常勤医師

千葉県済生会習志野病院 呼吸器内科兼任

伊藤 遼(イトウ ハルカ)常勤医師

千葉県済生会習志野病院 呼吸器内科兼任

クリニカルインディケーター

新患患者 疾患の内訳

新患患者 PH VTEの内訳

右心カテーテル件数の推移

肺高血圧症

(1)息切れ

息切れは、気管支ぜんそく、タバコ病である慢性閉塞性肺疾患、肺線維症なと、肺の病気でおこりますが、図1に示すように、心疾患、貧血等血液疾患、甲状腺疾患、神経疾患等、さまざまな原因で起こり得ます。その中で、見落とされやすいのが、肺高血圧症や肺血栓塞栓症です。息切れや胸痛等、急激に起こる肺塞栓症は、比較的診断しやすいですが、階段歩行時の息切れに始まり、次第に増悪する肺高血圧症や慢性の肺血栓塞栓症は、胸部X線、心電図、血液検査等、一般的な検査は正常の場合もあり、診断が難しい病気です。まず、肺高血圧症を疑って、専門医の診断や心臓エコー検査によるスクリーニングをする必要があります。

息切れをきたす疾患

(2)肺循環とは

肺循環は心臓から拍出された血液が肺をめぐり,心臓へ戻ってくる体内循環の一つです。 心臓から出た血液が肺を巡り心臓へ戻ってくる過程にかかる時間はおよそ5-6秒とされています。この5-6秒の間に酸素を血中に取り込み二酸化炭素を身体の外に出すという私たちが生きていくために欠かせないガス交換が絶えず行われていることになります(図2)。

肺動脈へ血液を送り出す力の源は「右心室」の収縮期圧です。肺動脈収縮期圧は右室駆出期圧と等しく、肺動脈拡張期圧は肺動脈弁の閉鎖により保たれ、つねに肺への血流を維持する仕組みになっています. 安静時平均肺動脈圧の正常値は 15mmHg以下とされ、血圧計で測定可能な「体血圧」(120/80(平均100)mmHg 程度と比べると低い圧力でコントロールされています。

図2

千葉大学医学部附属病院呼吸器内科
笠井 大先生、重田文子先生提供

(3)肺高血圧症の定義

従来、肺高血圧症の定義として、右心カテーテル法(頸などの血管からカテーテルを挿入し、肺動脈で実測する)で、測定した平均肺動脈圧25mmHg以上という基準が用いられてきましたが、昨年のニースの国際会議で、平均肺動脈圧>20mmHgという定義が用いられるようになりました。なお、心臓エコー検査で、右房と右室の間の弁(三尖弁)における逆流速度から、肺動脈圧収縮期圧を推定することも可能で、逆流が2.8m/秒(31mmHgに相当)の場合、肺高血圧症の可能性があります。

(4)肺高血圧症の症状

肺高血圧症では,階段歩行時の息切れ・疲れやすさ・動悸がみられますが、他の肺・心臓の病気でもみられます。ただ、むくみや失神・胸痛のエピソードを伴っていれば肺高血圧症をより疑います。特に症状はなく、検診の心電図異常で疑われ,診断に至る方もいます。

肺動脈圧の高い状態が持続すると肺動脈の壁は固く・厚くなっていきます。そのため肺動脈圧は更に上昇してしまいます。肺動脈圧が高いと右側の心臓内の圧も高くなり、全身の血液が右側の心臓に戻りづらくなります。そのため全身がむくんだり、胸腔内や腹腔内に水が溜まります。また戻る血液量が少ないため、全身に送り出す血液量も減ってしまい、血圧が下がります。右側の心臓の圧が高い状態が持続すると右側の心臓自体の動きが悪くなり、症状は増悪していきます。その結果、息切れや倦怠感の程度は強くなり、日常生活を送ることが困難になります(図3)。

図3

千葉大学医学部附属病院呼吸器内科
笠井 大先生、重田文子先生提供

(5)肺高血圧症の原因

肺高血圧症の原因は血管系0.3mm以下の細い肺動脈に血管変化がおき、血管が何らかの理由で狭くなることが原因であると考えられています。以下の3つが大きな要因であると考えられています。

  1. A) 肺動脈の壁が厚く・固く変化する
  2. B) 肺動脈に血栓などが付着し、狭くなる
  3. C) 肺動脈の痙攣(攣縮)がおき、血管が収縮することで血管が狭くなる

に分けられます。A)は膠原病・肝臓病・特発性や遺伝性・低酸素・薬剤の影響などに伴って生じます。B)は下肢静脈内に生じた血栓が飛び肺動脈内に詰まる肺血栓塞栓症や腫瘍組織が詰まる腫瘍塞栓などで生じます。C)は特発性や遺伝性、低酸素血症を伴う呼吸器疾患に伴う肺高血圧症などで想定されています。

(6) 肺高血圧症の診断の流れ

初期に生じる症状は他の疾患で認められるものと似ており、肺高血圧症を疑って検査を進められるかが重要となります。

採血・心電図・胸部X線検査で右側の心臓に負担がありそうな所見を認めたら、経胸壁心エコーで間接的に肺動脈圧の測定を行います。上記検査で肺高血圧症が疑われたならば、実際に肺動脈内にカテーテルを挿入して肺動脈圧を測定(右心カテーテル検査)し、平均肺動脈圧が20mmHgを超えると肺高血圧症と診断されます(図4)。

肺高血圧症の原因を診断するためには、詳細な問診と膠原病や感染症の検査・造影CT・肺血流シンチ・腹部エコー・肺活量検査・などの追加検査が必要です。

図4

千葉大学医学部附属病院呼吸器内科
笠井 大先生提供

(7)肺高血圧症の治療

(A)特発性・遺伝性肺動脈性肺高血圧症や膠原病に伴う肺高血圧症

 細い肺動脈の肺血管が攣縮したり、リモデリング(肺動脈壁が固く厚くなる変化)が病態であり、エンドセリン受容体拮抗薬、ホスホジエステラーゼ5阻害薬や可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬、プロスタグランジン製剤、この3系統の薬を最低2剤は併用して治療します(図5,6)。その際、平均肺動脈圧を最低40mmHg以下、可能な限り正常化を目指します。重症例では、プロスタグランジンの持続静注療法を用います。さらに、治療抵抗性の場合、肺移植の登録を行う場合もあります。また、膠原病が原因の場合、膠原病内科にも罹っていただき、ステロイドや免疫抑制薬で治療することが有効な場合もあります。

肺動脈性肺高血圧症は、国の指定難病に認定され、現在約3000名の患者さんが登録され、医療費の控除を受けています。

図5肺動脈性肺高血圧症の治療薬

図6

特発性・遺伝性肺動脈性肺高血圧症の治療指針図

(B)慢性血栓塞栓性肺高血圧症

急性肺血栓塞栓症は、エコノミークラス症候群とも呼ばれ、長時間の飛行機での旅行や、大きな地震が起こった際の避難所のように、同じ姿勢を保っていたり、脱水になることによって、足の静脈に血栓ができて肺にとび、呼吸困難、胸痛をきたす病気です。診断され、治療を受けると治りますが、受診や診断が遅れて無治療の場合、死に至ることも多い病気です。図7上段は、重症の急性肺血栓塞栓の患者さんに手術を行った際、取り出された血栓です。足の静脈の鋳型のような赤くやわらかい血栓です。

一方、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension: CTEPH)は、器質化した血栓により肺動脈が慢性的に閉塞を起こし、肺高血圧症を合併し、臨床症状として労作時の息切れなどを認めるものです。図7下段は、CTEPHの患者さんに、肺動脈内膜摘除術という手術を行い、内膜とともに摘出された血栓で、急性と異なり、固く白い血栓になります。急性肺塞栓症の既往がある患者さんが、半数近くいますが、既往のない患者さんも半数いて、肺動脈性肺高血圧症と同じ、労作時の息切れのみを訴える患者さんも多いです。一方、手術や最近ではバルーンカテーテル治療で著明に改善する患者さんも多いことから、早期に正確な診断を行うことが重要です。

慢性化の原因は、多くの場合不明ですが、抗リン脂質抗体という抗体が凝固亢進の原因になっている例が20%程度いらっしゃいます。すべての症例で、ワーファリン等による抗凝固療法を生涯継続する必要があり、低酸素血症がみられる患者さんでは、在宅酸素療法を行います。また、血栓が詰まっていない血管では、肺動脈性肺高血圧症と同様の肺血管の固くなる変化が起こっていることが知られており、肺血管拡張薬が有効な場合もあります(図8)。

図7

急性肺血栓塞栓症とCTEPHの造影CT所見、摘出された血栓の違い

図8
慢性血栓塞栓性肺高血圧症治療アルゴリズム

(C)呼吸器疾患に伴う肺高血圧症

慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎(肺線維症)の患者さんは、低酸素が進むと肺高血圧症を合併する頻度が高くなります。原因は、低酸素による肺血管攣縮、肺自体の破壊や血管の進展、線維化、固くなる変化等によります。治療とてしては、低酸素に対する在宅酸素療法や元の病気の治療が重要です。一方、元の病気の程度に比べて、肺高血圧症が重症な例がまれにみられ、その場合、肺動脈性肺高血圧症と同様の治療が有効な場合もあります。ただし、すべての患者さんに有効なわけではないため、専門医による診断、治療が重要です。

(8)看護・管理・QOL

 日常生活での注意点としては, 肺動脈圧を上昇させる可能性のあるものは避けること、および右心不全症状を悪化させないことが重要です。過度の運動は, 心拍出量の増大から肺高血圧を悪化させ右心不全や不整脈を招くことがあるため控える必要があります。一方、軽い運動は血流を改善させ、運動能力が増して、QOLを良くする場合があります。 喫煙および高所への旅行も, 肺動脈圧の上昇をきたすため避ける必要があります。 また, 妊娠および出産を契機とした病態の悪化がしばしば報告されており, 一般に妊娠は避けることが望ましいです。プロスタサイクリン持続静注療法を行なっている患者さんでは, 急速注入や停止によって, 低血圧やショックをおこすこともあることから, 近医や訪問看護, 在宅管理システムとの連携をはかることが重要になります。.この他、 水分の摂取量ならびに尿量を毎日チェックする習慣をつけていただき、体重の増加や尿量の減少に加え, 下腿の浮腫などが認められた場合, 安静度を強めるとともに利尿剤の追加内服が必要なります。

なお、全国的な患者さん・ご家族のための患者会もございます。
病気のこと、他の患者さん・ご家族のかたとの交流、社会的サポートについてもご相談できますので、下記ホームページをご覧ください。

関連リンク
特定非営利活動法人 PAHの会
https://www.pha-japan.ne.jp

» 『発熱で受診される方へ』について

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