ロボット支援手術(ダヴィンチ)の対象となる疾患について
目次
1. 前立腺がんに対するロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術(RARP)
前立腺は男性のみにある臓器で、膀胱の下で尿道を取り囲むように位置する臓器です。
主な役割は精液の一部に含まれる前立腺液の生成です。
2019年に日本全国で前立腺がんと診断されたのは約9万人といわれており、検診などの普及により罹患数(新たにがんと診断された方の人数)は増加傾向にあります。
早期の前立腺がんではあまり自覚症状がなく、血尿や腰痛など骨への転移による痛みがみられる段階では、既に進行してしまっていることが多いため、PSA(血液検査でわかる前立腺がんの腫瘍マーカー)の測定を用いたがん検診の受診が推奨されています。
ロボットを用いた手術の対象は、基本的には転移のない限局性前立腺がんの患者さんとなります。
前立腺と精嚢を摘除し、尿道と膀胱を吻合する手術で、早期の前立腺がんに対して有効と考えられます。
従来の腹腔鏡手術と比べて出血量が少なく、また尿道と膀胱の吻合操作がやりやすく、尿失禁などの術後合併症の割合も少ないと考えらえています。
頭低位(仰向けの状態から傾けて頭を低くした状態)で手術を行うので、一部の患者さん(未破裂脳動脈瘤を有している、緑内障の一部 など)では適応にならない場合もございます。
2. 腎細胞がんに対するロボット支援腹腔鏡下根治的腎摘除術(RARN)
3. 腎細胞がんに対するロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術(RAPN)
腎臓は左右1個ずつ存在し、血液をろ過し、老廃物と体に必要なものを仕分けして、尿をつくる働きをしています。
腎臓の細胞ががん化したものを腎臓がん(または腎がん)といい、このうち腎実質の細胞ががん化したものを腎細胞がんと呼んでいます。
初期の段階ではほとんど自覚症状はなく、進行すると血尿、腹部膨満感、腰背部痛などの症状がでることがあります。
がんのある腎臓と、それを包む周囲の脂肪を一塊に摘出するのが、根治的腎摘除術です。
腎動脈、腎静脈、尿管を切除し、片側の腎臓を摘出します。
ロボットを用いることで、開腹で行うよりも出血量が少なく、より安全に行うことができると考えられます。
傷跡も小さくすみますが、最終的に腎臓を体外に摘出しなければいけないので、7-10cm程度の傷跡は残ります。
直径が4センチメートル以下の小径腎細胞がんに対しては腎部分切除(腎臓を全部摘出せずに、一部分だけ切除すること)を行うことがあります。
腎機能の保持において有用と考えられ、がん制御においても従来の腎摘除術と同等であることが示されています。
腫瘍の位置を正確に把握する、腫瘍の取り残しが無いよう正確に切除する、部分的に切除した腎実質の断端を縫合する、など難しい手技が必要ですが、ロボットを用いることによって、それらの手技もより安全になりました。
ただし、腫瘍の位置や大きさによっては適応とならない場合もあります。逆に4センチメール以上の腫瘍でも部位によっては部分切除が可能な場合もあります。
詳細は担当医師とご相談下さい。
4. 膀胱がんに対するロボット支援腹腔鏡下膀胱全摘除術
膀胱に発生するがんのことで、血尿や排尿症状(頻尿、排尿時痛、残尿感など)を契機に見つかることが多いです。
膀胱がんがみつかった場合、一般的には経尿道的内視鏡手術:TURBTと呼ばれる内視鏡手術によって、膀胱がんを内視鏡的に切除することを試みます。
その結果、膀胱がんであるかどうかの診断が確定し、さらに深達度(膀胱がんが膀胱壁のどの程度の深さまで浸潤しているかどうか)も判断されます。
膀胱壁の中ほどには筋肉の層があり、がん細胞がそこを超えないものを筋層非浸潤性膀胱がん、超えるものを筋層浸潤性膀胱がんと診断します。
膀胱がんのうち、筋層浸潤性膀胱がんに対して行われる治療が、膀胱全摘除術です。
筋層非浸潤性膀胱がんであっても、悪性度の高いがん、再発を繰り返すうちに深くなってしまうがん、BCG膀胱内注入治療で治癒できなかった上皮内がんに対しても行うことがあります。
また、膀胱を全摘除する場合、尿路変更(尿を排泄する経路の再構築)を同時に行います。
回腸導管増設、回腸利用新膀胱増設、尿管皮膚瘻増設などが代表的な尿路変更の方法です。
がんの状態や年齢、手術の既往、合併症、腎機能の程度などを鑑みて術式を決定しています。
こちらもダビンチを用いることで、開腹手術と比べて、術中出血量が少ない、傷跡が小さい、術後回復が早いなどのメリットがあると考えられます。